その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
◇
秦野さんと話したことを考えながら家に帰り着く。
私が気を利かすつもりでやったことが、教育担当として頑張ろうとしていた秦野さんの気持ちを傷付けてしまった。
話が終わったあと、秦野さんは笑顔で挨拶をして帰って行ったけど、普段より疲れたように見える彼女の表情がずっと気になっている。
ため息を吐きながら玄関のドアを開けると、そこに広沢くんの靴があった。
今日は私よりも先に帰っていたみたいだけど、来てたのね……
ずっと以前に鍵を渡してから、広沢くんは予告なく私の家に来ることがある。
今日は何も言ってなかったし、連絡もきてなかったはずだけど。
スマホを取り出して確認しながら部屋に入ると、ソファーに寝転んでいる広沢くんの姿が見えた。
「広沢くん?」
声をかけてみたけど、返事がない。
近付いてみると、スーツのジャケットだけを床に脱ぎ捨てて、すやすやと眠っていた。