その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
真っ直ぐに私を見つめる広沢くんの瞳に僅かに肩を揺らすと、彼がとても綺麗に微笑んだ。
「まだ話は終わってないですよ?『お願い』をきくかどうかは、れーこさんの対応次第なんで」
「どういう意味?」
怪訝に眉を寄せる私を見ても、広沢くんは意味ありげな笑みを称えたままだ。
「俺の名前呼んで、大好きって言いながらちゅーしてくれたら、れーこさんの『お願い』聞いてあげてます」
「何よ、それ」
私の性格上難しいとわかるであろう要求を、広沢くんが笑顔で突き付けてくる。
眉間を寄せて、バカな要求をしてくる彼を押し退けようとしたら、左耳をぺろっと舐められた。
「ちょっ……」
「れーこさん、早く呼んで」
甘くささやくようにせかしながら、広沢くんの唇が耳を這う。
言葉では簡単に従わない私への、彼の実力行使。そうすれば、私が最後には負けてしまうのを彼は知ってる。
「律……」
普段から呼んでしまうと、職場で間違えてしまうような気がする。それが怖くて、滅多に呼べない彼の名前。
だけどその名前を呼ぶと、広沢くんはいつも、すごく満足そうに頬を緩める。