その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―



あぁ、もう。オフィスの外では全然ダメだ。

完全に私のことをナメている。


「わかってると思うけど、電車降りたら別行動だから」

8つ年下の部下で、そろそろ付き合い始めて3ヶ月になる彼に低い声で念を押すと、「はい、はい」と適当な返事が返ってくる。


「じゃぁ、降りるまでいっぱい触っとこ」

私の言ったことがわかっているのか、妙な手付きで腰を撫でてくる広沢くんを、せめてもの抵抗の意味を込めて冷たく見つめる。

だけど、そんな私を懲りもせずに愛おしげに見つめ返してくる彼に、結局私はいつも敵わない。

無駄な抵抗はやめて、私を守る腕に包まれたまま満員電車に揺られていると、あっという間にオフィスの最寄駅に到着する。

ドアの開く合図に、気持ちを切り替えると、密着していた広沢くんの胸を退(しりぞ)けるように押した。


「じゃぁ、ね」

ここから先は、きちんと上司の顔に切り替えるのだ。

すっと背を伸ばして微笑んでみせると、広沢くんが眩しげに私を見つめて名残惜しげに手を伸ばす。

電車を降りていく乗客の流れに紛れながら、離れた私を強引に引き寄せた。

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