その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「広沢さん、面倒見良いよなー。1個しか違わないのに、めっちゃ頼りになるし」
秋元くんがそう言いながら、目の前のサラダに箸を伸ばす。
そこから自分の取皿に大量にそれを掻っ攫うと、秋元くんの隣に座る秦野さんが、嫌悪感たっぷりに眉をしかめた。
「ちょっと、秋元。後輩のくせに、真っ先に箸伸ばして大量に摂らないでよ。取り分けるか、もしくはまず碓氷さんからでしょ」
「あ、すみません。つい……」
秦野さんに横目で睨まれた秋元くんが、私のことを気にするようにチラッと盗み見る。
その顔があまりに気まずそうなので、私は思わず苦笑いした。
「いいのよ。そんなの気にせず、好きなだけたくさん食べて」
私がそう言うと、秋元くんがほっとしたような顔をする。
「確氷さんがいいって言ったって、ちゃんと周りを見なさいよ」
秋元くんに向かって小言を言う秦野さんの表情には、いつも広沢くんや他の男性社員を相手にしているときのような、媚を売る感じが少しもない。
デスクも近いし、よくお互いに何かやり合っているところを見ると、秋元くんは秦野さんにとって、体裁を取り繕うべき相手ではないらしい。