その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
声音や表情を全く取り繕っていない秦野さんの姿を珍しく思いながら見ていたら、彼女が私やその周りの同僚たちのために均等にサラダを取り分けてくれた。
その間もふたりでずっと何か言いあっている秦野さんと秋元くんの姿を見て、桐谷くんが無垢な瞳でにこにこと笑う。
「秋元さんと秦野さんて、仲良いですね」
「良いわけないでしょ!」
「良くねーよ!」
桐谷くんの言葉に、秦野さんと秋元くんが同時にムキになって反論したから、思わず吹き出しそうになってしまった。
「でも、息は合ってましたよ」
「そんなわけないでしょ。秋元なんて、同僚の中で一番気が合わないんだから」
「それはこっちのセリフです。だいたい秦野さん、先輩のくせに頼りないんですよ。だから新城さんだって、しょっちゅう広沢さんのところに行って指導受けてるんじゃないですか」
売り言葉に買い言葉といった感じで秋元くんがそう言うと、秦野さんが言葉に詰まったように黙り込んだ。
秋元くんも普段はそんなにはっきり物事を言うタイプではないのに。今日は秦野さんに対してやたらと当たりがキツい。