その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―


新城さんに対して感情的にならずに接している秦野さんの姿を見て、やっぱり広沢くんに頼んでよかったとほっとしていた。

だけど、それから1週間経った頃。企画部署内で、『広沢くんと秦野さんが付き合っている』という噂がささやかれ始めた。

どうやら、広沢くんと秦野さんがふたりで飲みに行くのを目撃した社員がいたようで。


『広沢くんと秦野さんが、仕事帰りにふたりでご飯食べに行くところを見ちゃった』

最初はたぶんその程度だった話に、どんどんと尾鰭がついていき。


『広沢くんと秦野さんって、結婚前提で付き合ってるらしいよ』

その噂が私の耳に届いたときには、既にそんなカタチになっていた。

もちろん、私はその噂がガセだとちゃんとわかっているし、広沢くんも「聞かれたらちゃんと否定してますから」と、訊いてもいないのに私に強く主張してきた。

広沢くんがそうやって否定をしたら、大抵の人は興味を失って去っていくらしい。

だけど、仕事の合間に噂の真相について訊ねてきた新城さんは違った。


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