その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「あー、大丈夫。怒ってるとかそういうんじゃないから」
広沢くんたちは、私が今年の新入社員には甘いなんて言ってたけど。ちゃんとそれなりにビビられてるじゃない。
桐谷くんの表情の変化に、苦笑いする。
「だけど、そんなふうに他の部署にも噂がたっちゃうくらい、私って同僚からあまりよく思われてないの。『仕事はできても厳しすぎる』って上司にも部下にも言われて敬遠されてるのを知っているから、絶対参加ではない社内の飲み会は極力断るようにしてるのよ。私の隣になった人は最初から最後まで気を遣っちゃうし、場の雰囲気を悪くしちゃうでしょ?」
「そんなことないですよ。俺は碓氷さんがいて、すごく楽しかったですから。秋元さんや菅野さんも、きっとそう思ってますよ」
一回り近くも年が違う桐谷くんが、自虐的な私の発言を一生懸命フォローしてくれるから、何だか可笑しかった。
「ありがとう」
「でも、碓氷さんがいて一番楽しそうにしてたのは広沢さんですよね?」
お礼を言って笑いかけると、少し背の高い桐谷くんがふっと目を細める。
新入社員のふたりのことは甥っ子や姪っ子みたいな、そんな感覚で見ていたのに、彼がふとみせた大人っぽい表情にハッとした。