その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―



「それって、どういう意味?」

これまでまだ学生と同じようなものだと思っていた桐谷くんの、こちらを見透かすような大人っぽい眼差しに、初めて警戒心が芽生える。

慎重に言葉を紡ぐと、桐谷くんがいつもどおり無垢な目をして私に笑いかけてきた。

さっきの彼の表情は私の見間違い……?

見極めようと眉を寄せたとき、桐谷くんが無垢な瞳で微笑みながら口を開いた。


「確氷さんと広沢さんて、付き合ってるんですか?」

「え?」

桐谷くんの見せる柔らかな笑顔とはまるで正反対の鋭い質問に、ほんの一瞬表情が強張る。


「どうしてそんなふうに思うの?」

すぐに取り繕うように微笑んでみたけれど、間に合わなかったらしい。

桐谷くんは私の質問に答える代わりに、「やっぱり」と小さくつぶやいていた。

今まで誰にも気付かれずにきたのに。それどころか、広沢くんは秦野さんと付き合ってるなんてデマが流れるくらいだったのに。

桐谷くんにはどうしてバレてしまったんだろう。


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