その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―



随分と年下のくせに、わかったようなことをいう桐谷くんの言葉が疑わしい。

猜疑心しかない目で見つめたら、桐谷くんがまた小さな声をたてて笑った。


「俺、どっちかっていうとそういうの鋭いほうなんです。そうじゃなくても、どう見たって広沢さんが気にしてるのは完全に碓氷さんなのに。秦野さんとの噂がたつのも、他の先輩方がそれを信じちゃってるのもすげー不思議です」

「これまでの私を知っている人からすれば、広沢くんと私が…なんてことは考えられないことなんだと思う。でも、何の先入観も持っていない人が見たら、バレそうなくらいに危ういんだということは今の話でよくわかった。ありがとう」

冷静にそう返したとき、ちょうど電車が私の降りる駅へと到着した。


「お疲れさま。また明日ね」

「俺はもちろん誰にも言うつもりありませんけど……社内の人に知られちゃったら、そんなにダメなんですか?」

別れの挨拶をして降車しようとしたとき、桐谷くんが私の背中に向かって訊ねてきた。


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