その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―



「そういえば、知ってます?」

「何を?」

辺りを窺ってから声を顰めた菅野さんの様子からして、また誰かの噂なのだろう。


「広沢さんが付き合ってるのって、秦野さんじゃなくて本当は新城さんなんじゃないかっていう(はなし)

「え?」

ドリップコーヒーのフィルターを取り除こうとしていた私は、『広沢くん』の名前に反応してマグカップをひっくり返してしまった。


「あつっ……」

溢れた熱々のコーヒーが左手の甲に少しかかってしまい、小さく悲鳴をあげる。


「え、大丈夫ですか?碓氷さん」

「ごめんなさい。ちょっとぼんやりしてしまって。ふたりとも、かからなかった?」

ジンジンとする左手を庇いながら両サイドの菅野さんと桐谷くんに声をかけると、ふたりが驚いたように目を見開いてそれぞれ首を横に振る。


「私は全く」

「俺も平気です。それより碓氷さん、早くそれ冷やさないと」

桐谷くんが私の左手首をつかんで給湯室の水道のほうへと引っ張る。

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