その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「碓氷さん、手伝います」
先に濡らして絞っておいたフキンに菅野さんが手を伸ばす。
そのとき、ひとりの男性社員がやってきて給湯室の入り口から顔を覗かせた。
「あ、菅野さんここにいた。たった今、取引先から菅野さん宛にお電話が……だけど、取り込み中みたいですね。あとで折り返すって伝えましょうか」
シンク横の作業台と床にこぼれたコーヒーに気付いた同僚が気遣わしげに私たちを見つめる。
「菅野さんは行って。溢したのは私だから」
「でも……」
菅野さんの手からフキンをそっと抜き取ると、彼女の肩を押す。
それでも菅野さんが私に気を遣ってそこに留まってくれていた。
私の過失をそこまで気にかけてくれなくてもいいのに。
口元に苦笑いを浮かべたとき、桐谷くんがすっとそばにやって来て、私の手からフキンをとった。
「菅野さん、俺が手伝うんで行ってください」
桐谷くんに笑いかけられて、菅野さんがほっとしたように頬を緩める。