自堕落に、甘噛み。
満月の夜に


雑居(ざっきょ)ビルの地下1階にある会員制のBAR。薄暗い店内では洋楽が流れ、ソムリエの資格を持つスタッフが好みの酒を作ってくれる。

俺はここに多くて週に2日ほど来ている。息抜きにというほど疲れてるわけではない。ただ敷居(しきい)が高い店なので無闇に話しかけてこないスタッフと、酒が旨いという理由で通っている。


「もう、本当にいい加減にしてください……!」

落ち着いた雰囲気をぶち壊すような、金切り声が響く。なにやら奥のソファ席で男女が揉めているようだった。


「は?高い店に連れてきてやったんだから、触るくらいいいだろ」

「私はただ研究資料を見せてくれるって言ったから付いてきただけです」

場違いとも言えるカップルがいることは店を訪れた時から気づいていた。

男のほうは女よりも年上かもしれない。でも俺からすれば女を口説くために身の丈に合っていないBARを選んで連れてくる時点でガキというか青臭いなって思う。

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