自堕落に、甘噛み。
「なんか名前が可愛いからこれにします」
雪村が選んだのは、チェリーブロッサムという酒だった。カクテルグラスに注がれたカクテルがカウンターに出されると「……わあ!綺麗!」と嬉しそうに手叩きをする。
間接照明に当てられたチェリーブロッサムは血のように赤く、グラスのフチには甘漬けされたさくらんぼが添えられていた。
雪村はゆっくりとチェリーブロッサムを一口飲む。甘くて口当たりのいい味を気に入ったのか「美味しい……!」と言って、一気に喉へと流し込んでいた。
「あの、もう一杯飲んでもいいですか?ちゃんと自分でお代は払うので!」
「代金は気にしないでいいですから、好きなだけどうぞ」
社交辞令でそう言うと、雪村は遠慮もなしにチェリーブロッサムを次々と頼んだ。それはもう、ジュースのように。
「雪村さんの下の名前なんでしたっけ」
「七菜子です。でも下の名前は好きじゃないんです。私、昔付き合ってた人に浮気されちゃって。その相手の名前も七菜子だったんですよ」
「うわ、それは最悪ですね」
「最悪なんていうレベルじゃなかったです。自分の彼女と同じ名前の子と浮気するってどういう心理だと思いますか?」
「さあ、僕には専門外すぎてわからないですけど」
雪村はチェリーブロッサムを3杯飲む頃にはすっかり酔っていた。
白い肌を赤くさせて、とろんとした瞳になっている。俺はその様子を冷静に見ながら、バーボンロックを静かに飲んでいた。