溺愛シリーズ
女装男×フラレ女
皆はどうやって恋人を作っているのだろう。付き合ったとしてもどうやって継続させているのだろうか。

私にはそれが難しい大きな課題だったりする。
いや原因は分かっている。分かりきっている。ただどんなに私が対策を練って行動しても、どうしても避けられないのだ。

そして現在、その避けられない出来事に私は直面している。

「好きです!俺と付き合ってください!!」

決して私に言ってるわけではないこの告白。
何だったら私はこの男についさっき別れを切り出されている。


私は一体何を見せつけられているのだろう。


もう何回目の目撃なのか分からないこの状況に私は頭を悩ませた、いや今はフリーズしている。


私は今日久しぶりの彼氏とのランチに浮かれていた。
私が食べ終わって「美味しかったね。」と言おうとした瞬間、サラッと「別れたい。」と言ってきた『元』彼は、私を振ったその口で他の人に絶賛愛の告白をしている。

まさかと思っていたがもう行動に移しているなんて。よりにもよって兄のお店の裏口で、だ。

まぁ初めてではないから覚悟はしていたけど。

「付き合っていた女とはきっぱり別れた。俺は真剣なんだ。一目見た時から君の事が忘れられない!」

きっぱりって、私は納得してないけどね。お前だけがすっきりしているだけだよ。
お前だけがな!!!

「本当に別れたんだ...。」

その男の言葉を聞いて告白された相手はニコッと元彼に微笑んだ。
元彼の目の前に立っているのは兄のお店の従業員である。
黒髪ロングで端正な顔立ちでこんなにウエイトレスの格好を綺麗に着こなす人を私はドラマの中でしか見たことがない。
働いている姿はオーラがあり過ぎて誰もが1度は目で追っかけてしまうくらいである。


いつ見ても綺麗な顔しやがって。


そう、私は告白されている人物を知っている。というより私が振られる理由はいつもこの人のせいだったりする。そして気のせいか、私は告白されている人物、松本向葵(まつもと あおい)っと目が合って微笑まれた気がした。

その向葵の微笑みによってポッと頬を赤らめる元彼。

付き合ってた私にはそんな表情してくれなかったよね!!!!

「うーん、でも気持ちは嬉しいけど本当にごめんなさい。。。」

そしてこのパターンも毎回お馴染みである。


向葵が申し訳なさそうにそう言うと元彼は傷付いたように「えっ、、、」と言った。

傍から見たら本当に心の底から申し訳なさそうに見えるかもしれないが、残念ながら向葵が一ミリもそんな事を思っていないのを私は知っている。

だからこそある意味元彼が不憫に思う。

そんな向葵の姿に元彼が慌てているのが分かる。
何故だか告白する元彼達はいつも断られる事を予想していないらしい。

私が選ぶ元彼が残念な奴らなのか、向葵が超絶タラシなのか。

「俺の何処がダメかな?言ってくれたら直すんだけど」

そんな必死な元彼の姿を見て少し哀れに思った。

「ううん、あなたのせいじゃなくて私の問題なんだー。」

長い髪をくるくると人差し指で回してる姿も美しいってどういう事ですか?

まぁその姿も全部作り物って私は知ってますけどね!!!!!

「一体どういう、、、」と理由を知りたくてその理由を元彼が聞く前に葵は自身のスカートを掴みガバッと上にあげた。

こんな所で何やってるんだテメーは!!!!

元彼も真っ赤になっていたが私も思わずバッと後ろを向いてしまった。
そして元彼は始めは驚き慌てている声が聞こえてきたが次第にある事に気づいたのか
全く声がしなくなった。

「もしかして、、、、」

彼もとうとう真実を知ったか。

きっと青ざめた表情をしているだろう彼とは裏腹に綺麗な顔で微笑んでいるであろう向葵も想像ついた。

「そう、私、男なんだー♫しかも普通に女が好き。だからあなたとは付き合えないのー。ごめんねー。」

そしてバタッと何かが倒れる音がして振り向くと元彼が気を失って倒れていた。







「あぁーあんたの元彼マジ重たかったわー。まっ目が覚めた時のあの顔はウケたけど。」

そう言ってクスッと笑った向葵を私は睨みつけた。あの後結局向葵が元彼を抱えて店の壁に元彼を寄りかからせ目が覚めるまで葵と私で待ってあげていた。私が向葵に職場に戻っていいよって言っているのに頑なに一緒に居てくれた。

まぁ元彼が目を覚ました時元彼が私と向葵の顔を交互に見て血相を変えてダッシュで逃げた時は呆れて物が言えない私に対して、向葵は大爆笑していたけどね。

「なんで私が好きになる男は全部向葵さんを好きになるんだ。。。」


「はははは、あんたが男の趣味悪いだけだと思うよー。」

にこにこ笑顔で酷い事を言うこの女装男は私が泣きながら机に突っ伏しているのに、にこにこしながら目の前に座る嫌な男である。

「そこに座ってないで向葵さんは仕事しなさいよ。仕事。」

「今は休憩中だからどこに座ろうが勝手でしょー。」

いや、そこに座られると色んな人に見られてゆっくり感傷に浸れないんですけど。

この向葵という男と出会ったのは私が大学1年生の時だったと思う。私が大学生になって上京して、兄の経営しているカフェ&バーに初めて訪れた時に向葵に出会った。
だから意外に彼と出会って早3年目になる。

彼は兄の大学時代からの友人だった。大学時代でも勿論堂々と女装をしていたらしい。だからか大学時代の知人もたまにお店に遊びに来ては、私に彼の武勇伝を語ってくれた事もあった。

大学のミスコンで優勝した女性よりも美しいと言われ、向葵を男だと知らない男どもが告白している所を何度も目撃した等、それはそれは女性からしたら羨ましいの一言に尽きるような出来事の話だった。

そして、何故そんな彼が兄のお店で働いているのかというと、きっかけは兄が自分の店で社員として働かないかと誘ったのがきっかけだったらしい。

彼も趣味の女装が出来ると聞いて即OKしたとか。

私も初めて出会った頃は美しい女性の方だと思っていた。

たまに忙しい時期に私がバイトで兄のお店のお手伝いをしている内に仲良くなったのだ。

正直出会った当初は女性だと思っていたので、男だと知った時は心底驚いた。
何故なら真実を知らされる前に一緒にお出掛けしたり、色んな相談をしていたからだ。

彼と一緒にいるとそれはそれは信じられないほどの男性に声を掛けられた。
彼は全部華麗に無視していたけれど。

もっと早く男だって教えて欲しかったと思うが、私があまりにも女性だと思い込んでいて言うに言えなかったというので寧ろ申し訳なくなって謝った。


ただ、今はそんな彼が恨めしい。
今では完全に向葵さんは私の恋のライバルである。
全敗中ですけど。

そう思うとまた涙が出てきた。

「こら、俺の店でしくしく泣くんじゃない。営業妨害だ。」

そう言いながらも兄は頼んでもない、カフェラテを私の机にコトンと置いてくれた。

「うぅ、お兄ちゃん。。。」

そして、私は遠慮なくそのカフェラテを飲んだ。

「向葵も俺の妹をいじめるんじゃない。」

「虐めてないよー。真実を言ってるだけ。」

「お兄ちゃん、なんでこんな奴雇ってんのよー!!!!」

そう言って私はガバッと再び机に突っ伏した。

「何でって、顔が良いからに決まってんだろ。」

そうだろうけどさ。

「こんな良い顔で産んでくれた母さんに感謝だわー。」

ふざけんなお陰でこちとら好きな人やら恋人やらバンバン取られとるわ!!!!!

「ていうか、何で私の好きな人悉くアンタと知り合っちゃてんのよ!!!!私はわざわざこのお店避けてるのに!!」

「、、、、さぁなんでだろうねー。」

「はぁ、我が妹ながら不憫だよ。」

「煩いよ、和樹。」

何故か向葵くんはお兄ちゃんを睨みつけた。でも私の傷付いた心にはそんな二人の会話を気にする余裕は無かった。





「ちょっとアンタ飲み過ぎじゃない?」

「別に大丈夫だもん。ていうか何で向葵くん、ここに居るの?」

「アンタが心配で来てやったんでしょーが!」

「別に頼んでないもん。」

「あーもー、そんなに飲みたいんなら私の家で飲みなさいよ!」

そう言って私の手を掴んで引っ張った。

「なんで恋のライバルと飲まなきゃいけないのよ!」

「私はアンタをライバルだとは思ってないけど。」

どーせ、顔面偏差値アンタより数倍も低いわよ!!!と私がぷんぷん怒っていると、「そういう意味じゃなんだけどなー」と言いながら、向葵くんがさっさとお支払いを済ませていた。

「てか、私も払うよ。」

「いーよ、今度奢って。」

そう言っては奢らせてもらった事はない。ただたまに「ふふふ、いーの、いつか体で払ってもらうから。」と怖い事を言ってくる。


「大丈夫よ。アンタにはアンタの事を大好き過ぎて周りの男を排除していく最強の男が現れるわよ。」

「え、なんかそれ向葵くんみたいだね。」

「えっ。」

「なーんて、向葵くんなわけないか。向葵くんはどっちかてゆーと最強の男っていうより絶世の美女って感じだもんねー。というか力とかひょっとすると私の方が強そう。」

私がヘラヘラ笑いながら向葵くんを見たら不機嫌な表情をしていた。

酔いが最高に回っていた私には「ふーん、あとで覚えときなさいよ。」と言った向葵くんの言葉は聞こえなかった。

その後2人でタクシーで向葵くんの家に帰り、私より向葵くんはかなり力が強い事を思い知ることになった。


FIN
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop