普結くんは、桃にイジワル。
「…なによ鈴木」
「元気か八宏!俺はとても元気だ!」
「ああそうかいよかったね」
「今時間あるか?!」
「鈴木に捧げる時間なんて1分たりともないわよ」
「ちょっと来いよ!みせたいものがあるんだよ!」
「いやもう話聞いてよ!無視なの?」
話のキャッチボールをする気のない鈴木に引きずられて中庭へと連れ出される。
秋になったとはいえまだまだ暑い空気が外へ出た瞬間に襲いかかってきた。
「あっつ…
なんなの?」
「シーっ!静かに!
あれあれ」
唇に人差し指を充てて″静かに″のポーズをした鈴木がそのまま少し離れた場所を指差す。
そのまま目線をずらして、
言葉を失った。
真っ黒な髪の毛に鉢巻きを巻いて
声を上げるその姿。
いつも皆んなから離れた席で文庫本に向かっていた彼だった。
汗が顔に流れ落ちるのにも構わずに、
声を張り上げている。
「…な?
見てよかっただろ?」
「……うん、」
返事をするのが精一杯だった。
こんなにも何かに一生懸命に取り組んでいる普結くんを見るのが初めてで、
言いようのない気持ちが胸を締め付ける。
「かっこいい、ね…」
思わずこぼれ落ちたその言葉に、鈴木はにっこりと笑った。
「だろ?」