普結くんは、桃にイジワル。
日が傾き始めた校舎を普結くんと並んで歩く。
ただそれだけのことなのに、やけに気恥ずかしい。
あたしたちは今日から、″恋人″だ。
関係に名前がつくだけでこんなにも気持ちが楽になるなんて
思ってもみなかった。
「そういえばさ、なんであたしに好きって言ってくれる気になったの?」
「…なんでそんなこと聞くの」
「だって普結くんずーっと″好き″って言葉だけ言わなかったじゃん。
だ…抱きしめてきたり、手触ってきたりしてたのに」
「別にいいじゃん、なんだって」
別にいいじゃん、だと?
「よくないよ!!
あたしがどんだけ振り回されたと思ってんの普結くんに!」
「勝手に振り回されにきてたじゃん八宏さんは」
「…っ、まあそうとも言うけどさ!
いやそうじゃなくてさ!!」
納得のいかないまま、どうにか言い負かそうとごにょごにょと語尾を濁す。
そんなあたしをじっと見つめたかと思うと
おもむろに口を開いた。
「…自信なかったから」
「自信?」
「自分に自信なくて
八宏さんに好きって言ったところで
きっと振られるって思ってたから。
だから言えなかった」
「……あの時言ってくれたのは」
「体育祭頑張って、なるべく人と関わるようにすれば自信がつくと思った。
だから言えた」