普結くんは、桃にイジワル。
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「柚山?」
夕日が沈んで薄明るい空の下、
不意に聞き慣れた声が聞こえた。
高校生女子の割に低くて、
俺を躊躇いなく呼び捨てにする声だ。
振り返れば思った通り、茶髪のおかっぱ頭につり目気味の女が立っていた。
「相楽さん」
「今から帰るの?
あれ、桃いなかった?」
「……知らない」
″ 別に普結くんがどこのだれと何しようがどーでもいいし!
全く興味ないからっ!!″
やけに早口で彼女が吐いた言葉に、
俺はいとも簡単に傷付けられてしまった。
柄にもなく顔をしかめて、
同じ言葉で彼女を道連れにして傷つけた。
泣きそうな目が、震える唇が、
責めるように脳裏に浮かぶ。
「なによ、なんかあったの?」
「なんで」
「なんか珍しく無表情じゃないから」
ぐさりと突き刺さる、図星。
いつからこんなに心が顔に出るようになったんだろう。
考えてみたら最近こんなことがよくあった気がする。
自分で考えるよりも先に身体が動く、
顔に出てしまうこと。