普結くんは、桃にイジワル。
まだ暑い夕方、
体育館を目指して走った。
スマホだけ握りしめた手はやけに汗ばんでいて気持ち悪い。
どんな反応するだろう。
今度こそ本当に絶交だ、とか言われるかも知れない。
だけど、それでも。
普結くんに会いたい。
その瞬間、前につんのめるようにして何かに引っ張られて急ブレーキをかけた。
掴まれた腕を見ると、
いつもは整っているはずの赤い髪。
「鳴海くん…」
「どこ、いくんすか?」
「ごめん、ちょっと言えない
また明日ね」
強引に会話を終わらせようとしたあたしをそのまま離さない手が、
さらにぎゅっと力を込める。
「鳴海くんごめん、
本当急いでて…」
「柚山先輩とこいくんすか?」
低い声に思わず肩が跳ねる。
恐る恐る鳴海くんの顔を伺うと、
眉を寄せて苛立ったような悲しいような、不思議な顔をしていた。
「なんで?
昨日あんなひどいこと言われたのに」
「…だって、
普結くんが待ってるって言うから…」
「馬鹿ですか?
また泣くことになっても知らないっすよ?」
後輩にためらいなく馬鹿と言われてしまった。
相当の馬鹿なんだろう、あたしって。