可愛らしさの欠片もない
「咲来さん」
え?歩いて帰るんじゃなかったんですか?
「やっぱり、俺も電車にするよ」
この短時間に何がそう変えさせたんだろうか。
「…そうですか、案外疲れますからね」
「そう、そうなんだよね」
急に顔が明るくなったような気がした。
確かにさっきまでの私の対応はいいとは言えなかったから。言葉数が増えた、それだけなんだけど。ちょっと、気を遣わせてしまってたかもしれない。…難しいものだな。
なんでもないと思ってるのは自分だけって、都合が良くて我が儘なものの考え方なのかな。
「今日歩くのは一駅くらいで丁度いい、無理はするもんじゃないね」
無理だと思っていたのかな。
「あ、久田さん、体調不良だって言ってたよ」
そうでしょうね。絶不調だと思います。人によりますが。
「眠くなったの?」
「え?」
「…無口になったようだったから」
あー、すみません。それは別の理由です。以前のようになるのかと思ったのかもしれない。今日は一滴もアルコールは口にしていない。…まさか、また…おんぶをしようとして…?ではないですよね?
「そんなことはないです」
なんだか、無機質な返事だな。
「一駅くらいって思ったけど、早くついちゃうね。ん?その通りか。一駅分減ってるんだから」
「そうですね」
はぁ、ずっと一緒って、中々…。
「あ、ジョギング、してますか?」
「うん、してるよ?」
「先輩は?ウォーキングのことで何か、相談とかありました?」
「いや、あれは……社交辞令みたいなもんだよ。俺のしてることに興味がでたみたいにして、話をしてくれただけだと思う、多分だけど、上手だよねそういうとこ」