可愛らしさの欠片もない

「咲来さん」

え?歩いて帰るんじゃなかったんですか?

「やっぱり、俺も電車にするよ」

この短時間に何がそう変えさせたんだろうか。

「…そうですか、案外疲れますからね」

「そう、そうなんだよね」

急に顔が明るくなったような気がした。
確かにさっきまでの私の対応はいいとは言えなかったから。言葉数が増えた、それだけなんだけど。ちょっと、気を遣わせてしまってたかもしれない。…難しいものだな。
なんでもないと思ってるのは自分だけって、都合が良くて我が儘なものの考え方なのかな。

「今日歩くのは一駅くらいで丁度いい、無理はするもんじゃないね」

無理だと思っていたのかな。

「あ、久田さん、体調不良だって言ってたよ」

そうでしょうね。絶不調だと思います。人によりますが。

「眠くなったの?」

「え?」

「…無口になったようだったから」

あー、すみません。それは別の理由です。以前のようになるのかと思ったのかもしれない。今日は一滴もアルコールは口にしていない。…まさか、また…おんぶをしようとして…?ではないですよね?

「そんなことはないです」

なんだか、無機質な返事だな。

「一駅くらいって思ったけど、早くついちゃうね。ん?その通りか。一駅分減ってるんだから」

「そうですね」

はぁ、ずっと一緒って、中々…。

「あ、ジョギング、してますか?」

「うん、してるよ?」

「先輩は?ウォーキングのことで何か、相談とかありました?」

「いや、あれは……社交辞令みたいなもんだよ。俺のしてることに興味がでたみたいにして、話をしてくれただけだと思う、多分だけど、上手だよねそういうとこ」

< 100 / 150 >

この作品をシェア

pagetop