可愛らしさの欠片もない

あー、そうなのかな。凄く自然な会話だったけど。先輩は、そういうこと上手いのは上手いけど。
何もかも知っていなくていい。私が知らないだけで、もしかしたらジョギングをしないで、ウォーキングにつき合ってるんじゃないかって思ってたけど。そこは会社の知り合い同士でって感じで。特に感情抜きでもありかなと思ったけど…。なんか警戒したのかな…。
私だって必要以上に勘違いして敬遠しようとしてたし。…まさに男女だからね、…他人の目を気にするとね…。

次は◯◯、…。

「あ、着いたね」

「はい」

もう、今度こそ、ここでいい。

改札を抜けて、では、と言った。
ご近所だと聞かされている。だけど、どっちに家があるのかは知らない。

「あ…俺の家は咲来さんのアパートの向こうなんだ、だから送るよ。というか、単に帰る方向が同じだから…いいかな」

自然に一緒に歩くことになった。
では、と言った言葉に対して、何か言った方がいいとは思った。そうだったんですね、くらいは言うべきだと。じゃないと、長い距離ではなくても、変な沈黙を作ってしまう。

「…そうだったんですね。では、なんて無意識に言ってしまったから、なんだか変になりましたね」

「いや、知らなかったんだから、普通のことだよ」

「あ、では…」

あっという間だ。今度こそ、正真正銘、おやすみなさい、だ。

「お疲れ様、おやすみ」

「おやすみなさい」

ちょっとだけ、そのまま居て、大島さんを見送った。居ることに気づいた大島さんは路地の分かれで手を振った。
……ふぅ。なんだか疲れた…。食べたご飯の美味しさも忘れちゃった。
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