可愛らしさの欠片もない

「ねえ、見たわよ、昨夜」

「え?」

「もう、かなり進んだ関係なの?」

「え、なんのことですか?」

見えないところ、変な汗が吹き出した。
…まさか、…見られてたんだろうか。遅い時間帯なのに…。いつも私の部屋に来てるから。
でも、うちの部屋のことなんて、そこまで色んな人を嗅ぎ廻ったりしないでしょ…。こんなときはこっちから何か言わない方がいい。……あっ、と、昨夜って言った?…昨夜なら来てない。

「あの…」

見間違いじゃないかと思った。

「駅よ、一緒に歩いてたじゃない、大島さんと」

あ。…大島さんのことだったのか。…はぁ。慌てて自分から余計なことを言うところだった。

「あ、大島さんなら…」

「大島さんも手が早いわね。まだ離婚ホヤホヤじゃない」

え?手が早い?……そんな言い方…凄い決め付けた言い方…。歩いているところを見ただけですよね?想像されてるような…そんなんじゃない。

「違います」

あれは御飯の後のこと。でも、この人は…それを言ってしまうのも…また誤解を増やしてしまう。どうしようか…。

「とにかく、違います。い」

家の方向が同じなんですと、言おうとして止めた。それだって、行き過ぎた想像をさせてしまう元だ。家まで行き来してるんだとか、言いそうだもの。……はぁ。

「ふ~ん。別に悪いことしてる訳じゃないじゃない?大島さんは独身なんだから」
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