可愛らしさの欠片もない
だとしても違うんだから。…なんだか、知らないとはいえ、甲斐さんには奥さんが居るって言われてるような気になった。悪いことしてるって。
どうして今日は早く来てるんだろう。このことを私に話したかったから?昨夜からわくわくして早く言いたくて仕方なかったから?
いつものように当事者じゃない人に話すのではなく、私は知り合いだから、私に直接言って来たの?
先輩はまだ来ていない。いつもより遅いみたいだし。他の人が居ないのはいいけど、誰も居ないから逃げ場がない。
「大島さんに失礼になります。わ」
私達は、と、言いかけて止めた。私達は、なんて言ったらそこも敢えて突っ込まれそうだ。
「何でもありませんから」
せめて偶然会っただけです、と言っておいたら良かったかな。今から言うと、考えて言ったって思われそう。
…もう、知らない。どうせ何を言っても無駄。彼女の中では出来上がってる。
どうして、こんなに…二人でいたところを見ただけでこんな風に話したいのか…。ある種の病気だと思う。冗談なら冗談よと、ふざけた話で終わる。でもこの人はそこが違う。
「…お先です」
「あ、逃げるの?」
…。
逃げるの、は、あなたの考えから出た言葉です。私は更衣室を出ただけです。…事実、逃げてますけど…。居られる訳がない。本当、やだ。
こうして、自分のことを言われて初めて、普段の噂話だって、笑って聞いてはいけないと思った。当事者にされると、本当、弁解の余地がない。迷惑だ。事実だったり言い訳できないことなら尚更…。