可愛らしさの欠片もない

定時になってお疲れ様ですと帰って行くのを確認した。こんなときでも仕事仲間は仕事仲間。妙な態度をとって周りの人に不穏な空気を覚られたくはない。挨拶は遠くからでも解るようにしたつもりだ。
もう少しして、完全に帰ったくらいの時間に退社しよう。ひょっとしたら、更衣室に居るかもしれないから。

大島さんはまだ……まだ帰って来ないだろう。
家に帰ってからしても、その方が落ち着いて出来そうだけど、待ってる方の大島さんからしたら、何の用件か解らなくて気になってまたメールをして来そうだ。

【お疲れ様です。噂話の好きな先輩がいるのですが、その人に誤解されました。ご飯の帰り、大島さんと一緒に居たところを見たそうなんです。それだけで、さも何かありげに言われましたが、違いますと言ってます。ただ、あの人は自分で見たことを自分の思い込みで話すことが多くて、誤解は解けてないと思います。離婚されたばっかりの大島さんのことも、あの人の勝手な思い込みであまりよく言っていません。取り敢えず、そういうことを言われたという連絡です。咲来】

手が早い、とか言ってた。本当に迷惑な話だと思う。…あ。大島さん、反論しに行ったりしない方がいいから。追加で…。

【反応をすると、ことを荒立ててしまうので、静観するのが一番だと思います。咲来】

何もしないのが一番なんです。次に噂したいことが見つかったら、前のことは、そんなこと言ったかしら、くらいに言わなくなる。それを待つっていうのも癪にさわるけど、とにかく、相手にしないことなんです。

そろそろ大丈夫だろうか、更衣室に行って鉢合わせたら、もう引き返せないし、面倒臭い。
明日、先輩に……とにかく、ご飯から三人一緒だったと言ってもらおう。それだって、確かめてもらえば嘘じゃないって解る。
…迂闊にお店の名前を言ったら、もう、しばらくは行けなくなりそうだ。そうなったらそれは仕方ないか。
先輩にも連絡しておこう。
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