可愛らしさの欠片もない

「ちょっと知ってる?」

え?昨日、あれからなにもないって安心してたけど、そうはいかないってこと?今度は何を…。今朝も早く来てまで…連日まだ何か言いたいことがあるってことでしょうか?

「何を…」

でしょう…。付け足したいことってなんでしょうか。

「見たわよ」

…また…何をですか。…よく何でも見かける人だ。

「産婦人科から出てくるところ」

「……え………はい?」

「…もう…さ、ん、ふ、じ、ん、か。産婦人科よ」

聞き間違いかと思った。産婦人科?…そんな…。いくらなんでも、ここまで嘘を言われると限界だ。…どうしてこんなことまで……はぁ、…恐ろしい。続けて、もうそんなことになってるの、とでも言いたいのか。離婚前からそういう関係だったのって……。原因はあなただったの、とか。いや、これってなんだか、自分の現実に似通った話に…。

「あの、私、そんなところ…」

「え?違う違う、彼女よ、彼女。久田さん。さっき、知ってる?って聞いたでしょ?」

あ、そういえば、そう言ったんだ。先輩のロッカーを指した。あ…先輩。そんなに具合が悪かったんだ。

「フフ。妊娠でもしたのかしらね、そういうことでしょ?ね、どう思う?」

妊娠?はぁ…また突拍子もないこと……そんなのありえないでしょうに。そんな風に聞かれても。あ。………。そっちに発想?…。産婦人科だからといって全ての人がそればかりではない、婦人科、なのだ。他の理由でだって病院は受診する。だけど、……本当なら…。大丈夫なんだろうか。いや、彼女のいうことだ。妊娠はあくまでも想像に過ぎない。……そうでしょ?……ぇえ?…。妊娠……て。

「おはよう、妊娠してたら何?」

あっ、先輩…。今日は出社できたんだ。

「随分、想像で…勝手なことを言うのね。咲来さんにそれを聞いてどうするの?困るだけじゃない。いい加減なことは言えない。だけどそうじゃないとも言えない、何も知らないんだから」

先輩…。
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