可愛らしさの欠片もない
「それから、誤解をしてるようだけど、咲来さんと大島さんのこと、酷い言い方をしたようだけど、見たときは二人だったかもしれないけど、私も一緒だったの。いつも三人よ。
一つの、たまたま見たシチュエーションだけで思い込んで、あなたの都合のいいようにはめ込まないで。もう、無責任な噂話はしないで。聞かされる方が嫌な気になるって解らないの?」
…先輩。
「じゃあ、あなたの真実は何よ」
そんな、プライベートなこと、教える必要なんてない。
「病気よ。子宮筋腫。これでいい?」
あ。……えっ?
「どうぞ?久田さんは子宮筋腫ですって、って触れ回れば?」
手早い。先輩はもう着替え終わっていた。
「咲来さん、昨日は返信できずにごめんね。これでも、色々考えてちょっと落ち込んでたの、ごめんね。じゃあ、先に行くわね」
バンッと、珍しく大きな音を立ててロッカーを閉めた。残された彼女は静かだった。
今までの噂話、それは無しにはできないけど、無責任な話をすること、これで少しは無くなるかもしれない。
「…なんだ、妊娠じゃなかったのね……」
なんだ?……耳を疑った。手が震えた。先輩は筋腫を患ってるって言ったのよ、打ち明けたくもない病気のことを言ったのよ……負け惜しみに呟いたとしても、少し変わることを期待した私が馬鹿だったのかもしれない。期待はしないことにした。
「私、本当に違いますから、誤解です。お先です…」
先輩の勢いを借りて付け足した。威勢がいいのも他力本願だ。
着替える手が止まっていたのは彼女だけだった。