可愛らしさの欠片もない
「……はい」
「……そうか」
意外な返事が返ってきた、そんな顔をした。
「奥さんとの離婚を待ちたいと思います」
「…長くかかっても?」
「はい」
「…そうか」
もう、今ので冷めたかもしれない。
「何故ですか?」
きっと終わってしまうのに。
「ん?」
「何故、そうか、なのですか?」
「優李の気持ちは冷めたってことなんだろ?…離婚を待つなんて、それはもう無理だと言ってるようなものだ。まともな連絡も来なくなって、不安ばかりが募って、よく解らない人が、益々解らなくなって、熱は冷めていった。そうなってしまって、無理して気持ちを戻すなんてできないだろ。そういう状態になったからだろ。もう終わりってことだ」
「私が、気持ちがなくなったって言いましたか?」
「なしにしたいのだろ?改めて、また好きになりますなんて、そんな…それはもう無くていいものだ」
「それは……」
何度も回りくどい。
「俺を試してるのか、…何度も」
「甲斐さんが大人対応するからです。私がなしと言ったら、受け入れて、そうかって。それ、本当に、そうか、なんですか?」
「…はぁ」
「面倒臭いですか?」
「面倒臭い…解り辛い、いや、解ってる。何一つ変わったことはない。なしは、なしだ」
「はい」
なしは、なしです。…嬉しい。
「はぁ、本当に……面倒臭いぞ…」
「だって、…自分の思い込みで疑ってただけなんですよ?それがなくなったら…冷めるわけないじゃないですか。信じていいんですよね?」
「ああ、元々、信じてもらわなければ始まらないことだ。…何度も言ってる」
「それはごめんなさい…。どうして、離婚、そんなに長引いてしまうのですか?」
「優李の話、ちょっと、かすってるんだ」
「え?…」
どこが…。
「あぁ、待て、先に誤解しないでくれ。確かに俺の妻は優李が言ったように同期生だ。だから、久田とも友人だ。久田の気持ちを知ってる。だから離婚したら久田と一緒になるんじゃないかって、自分は上手くいかなかったのに、その後で久田となんて……それが嫌だって。
勿論、誤解だ、そんなことはない。だけど、学生の頃の久田の、好きだけど諦めたということを知っている。そこがなくならないと…不倫とはまた別問題だな、そこは妻の中で根強いんだ。問題にしてるのは不倫だけどな」
「証明することって難しい…?」
だけど、難しくないんじゃないかな、先輩は妊娠してる。その事実を知ったら?…あ…それすら、甲斐さんの子でしょと思ってしまいそうか。親子鑑定とか言い出したら大変だ。思い込み、嫉妬って一番怖いかも。………ぁ…人のことは言えない。私も怖い人間の一人だ。
「奥さん、甲斐さんのことが好きなんですね…」
だって、すれ違わなければ問題はおこらなかった訳だし。浮気をしたのだって寂しかったから。だからと言ってだけど。