可愛らしさの欠片もない

「帰らないよ」

あ。言われてしまった。

「そう言いたいって顔をしてた。…待っても良かったんだけどな。……仕事、終わらせて来たって言っただろ?」

「…嬉しい」

抱きついた。

「嬉しいか?」

「はい」

「俺も、嬉しい。はぁ、なんだか、やっと…、まだ完璧ではないけど」

「はい?」

「少しは安心して居られるようになったかと思ってね」

こうして抱きついたりしたからだ。

「あー、…すみません。どうしても、行ったり来たりして。自分でも、変なことになるから考えちゃ駄目だって思ってるんですけど」

「あれだな」

「はい?」

「何も考えられなくなるくらい、ってことだな」

「え?」

「余計なことをだ。こういうこと。…はい」

おむすびのラップもスープのカップも置くと、キッチンの上に座らされた。

「あっ、甲斐さん…」

「脚、冷たくないか?…甘い時間は多い方がいい。そうだろ?」

座らされても顔は同じ高さにはならない。かがみ込むようにして顔を包まれた。唇が触れ、途端リップ音がした。二度、三度…。顔を見られた。甲斐さん、優しい表情をしてる。…私は?…あ、ゆっくりと唇が触れ、下唇を食まれた。優しく柔らかい。ん。唇を割って……。こんなところで…。ん、甘く痺れて意識が遠くなりそう…。

「…ん、居ないときに思い出すなよ?上の空になったら危ないから」

料理をしていたらってことだ。あ。腕を肩にかけさせられた。抱えるようにして持ち上げられた。

「風呂は一先ず後にする。先にいいか?」

「はい」

「平気なのか?」

「え?」

ベッドに下ろされた。

「俺はこのままでも平気なのか?」

あ、ああ、そうだ。

「平気、です」

「だから…はぁ、おかしいだろ?人のことはそのままでいいって言うのに。自分は嫌だって」

手は動いている。会話と同時進行…。

「…それは、…甲斐さんは…いいんです」

「それと同じだ。俺だって、優李のそのままでいいんだ」

「んー…、理屈はそうですね。でも、やっぱり…」

「まあいいさ。今日は入ってるらしいから…」

来ていた服の形跡はもうない。もう脱がされていた。

「あ…はい」
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