可愛らしさの欠片もない
「…優李、もうなしにしようとか、言わないでほしい。こんな関係にさせて我が儘だと思うけど、俺から離れていかないでほしい」
「…え?」
「言葉も足りなくて、不安にさせてばかりで申し訳ないけど、こうして一緒にいてほしい。
優李は、俺の心の拠りどころなんだ。人間味があって温かい。優李の真っ直ぐな物の考え方、俺は好きなんだ。真面目に考えるから遠慮して言えないってところ、そこは直してほしいとは思うけど。
俺の側にいてほしい。駄目か?」
「あ、私なんか…ただ好きなだけで、それでやきもちばかり勝手に妬いて自滅するような人間です。何の力にもなれないです」
「…側にいてほしい」
手を取られた。あ。
「…指輪、どうして結婚指輪、したままなんですか?」
握られていた手を取り直して、甲斐さんの手を取った。指輪をしている指に触れた。
実際、離婚してる訳ではない。していても普通と言えば普通。
「…これか。そうか、気になるよな。これは、まあ、女避けみたいな物だ。結婚指輪ではあるけど、今はそんな意味でしてるのもある。離婚の手続きをしてるというのは周りの人間は知ってる。外したら離婚したんだと思う。それを目敏く見てる者も居るんだ。自惚れた言い方になるけど、そういうことが煩わしくてしてる」
はぁ、そうか、お声掛けが沢山あるってことなんだ。……。
「嫌だよな、外そう」
「いえ、いいです。そういうことならしててください。その方が私も安心です。これ以上、自分の知らないところで起きることに杞憂ばかりしたくないですから」
そして、その内、違う指輪に変わってくれたらいいと思う。それが最終的な希望だ。
「甲斐さん、私と結婚してください。あっ」
…求婚しちゃった。
「優李…」
「あ、今はそんな…無理だって解ってます。でも、いつか、いつになってもいい、結婚してください。私、早まってますか?でも、…逃したくない。いつかははっきりしてくれると信じています。ごめんなさい、結婚なんて、甲斐さんはもう結婚はしないつもりかもしれない。そんなことも解らないけど。……私の、一緒に居る意味です。それに意味を持たせてください。意味をください」
「…はぁ」