可愛らしさの欠片もない
「…このくらいのことなら、奥さんの前でだってしますよ?」
「…優李…優李のこと、頼んだ人間だと疑われたら?」
「もっとします。もういいって言うくらいします。頼んだ人間がここまで出来ますかって」
「そんなの、誰だって、金を積めば出来るって言われたら…」
「調べてもらえば解るって言います。甲斐さんがうちに来てることや、私がどこに勤めているとか、そんなこと、何から何まで調べられても私は構いません。疚しいことなんて、ない。甲斐さんを好きなことだって、疚しいとは思わない。だって甲斐さんは、事実、とうの昔に夫婦は破綻してるんですよね?」
「優李…」
あ、抱きしめられた。
「はぁ、情けないな、俺は…優李、有り難う。俺を好きになってくれて本当に有り難う…。俺には勿体ないよ」
「…そんな。ただの向こう見ずです。単純なんです」
「そこがいいんだよ。……頼む、俺から離れないでくれ」
「はい。これからは沢山言ってほしいです」
「ん?」
「はっきり解るように、言葉は多く、口数も多く、そして、短くても、…好きだって」
何度も。もう、不安だらけになりたくないから。
「フ、言うさ、言うよ?優李、好きだ。
それから、構わないときでいいから、ご飯も作ってくれたら嬉しい」
「はい。勿論です。あ、上達するように頑張らないと。…そそっかしいのも、気をつけます。お風呂も、準備して待ってます」
「ん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「フ。では、早速、お願いがあります」
「はい?」
「今から風呂に入るので、優李も一緒に入ってほしい。それから、そのあとも…また、よろしくお願いします。朝、早めに帰るので、…朝までよろしく」
あ。
「…はい」
話せばこれだけのことなのに。少しの時間でこんなに満ち足りた気持ちになれるのに。
「…お手柔らかに、お願いします」