可愛らしさの欠片もない

「優李、優李を会わせるつもりはないから」

「え?私は大丈夫ですよ?」

怖くはない。

「顔を覚えられたくない。勿論、名前だって、身上だって」

「…でも」

それはもう無理だと思う。

「解決後だって、何があるか解らない。男と女の別れなんて……感情が絡んだらいつどうなるか解らない。例え納得して円満に別れたとしてもだ。歪み合ったことを思い出さないこともない。そこから発展して何か起きるかもしれない。何も起こらないとは言い切れないだろ?百パーセント安全だと言い切れないことに巻き込むことは出来ない。
俺は優李の覚悟のような物をもらった。それだけで充分だ」

「甲斐さん…。でも、私は大丈夫ですから」

「…ん、有り難う。まだ本当、何も知らないな。誕生日は?まだ来てないか?」

「え?誕生日?はい。まだです、甲斐さんは?」

「俺もまだだ」

「じゃあ、お祝い、できますね」

「そうだな」

「兄弟は?いますか?おじいさん、おばあさんもお元気ですか?学校ってずっと共学でしたか?甲斐さんて、食べ物、何が好きですか?あ、嫌いなものは?そういえば、一緒にご飯て、あのカフェで食べただけでそれ以外ではないですよね。でも、外で食事はまだ難しいですよね。どこに誰の目があるか解らないから。私の会社に噂好きの人がいて、その人に見つかりでもしたらきっと大変です。凄い素敵な人と居たって、あぁ、でも却って信じてもらえないかもしれないですね、私が甲斐さんみたいな人と一緒にいたなんて。それは対象ではないだろうって。そしたら噂として成立しないかもですね。それから…ん」

あ。何だか…弾んで…喋り過ぎたかな。

「…ん、堰を切ったように…よくしゃべる口だ…。フ、一度に沢山話されたら答えることが出来ないだろ…」

後ろから抱かれていた。首を少し捻られ口を塞がれた。

「あ。…なんだか凄く嬉しくて…。私、アルコール、駄目なんです。でも、嬉しいことがあると飲むって決めてあるんです。コンビニに寄って買って帰るんです、一口だけ飲むだけに」

「そうか」

「最近は甲斐さんに出会った日に飲みました」

「フ、…はぁ、そうか」

ギュッと抱きしめられた。…嬉しい…嬉しくて堪らない。

「甲斐さん…」

「ん?」

「まだまだ聞きたいこと、知りたいことがあります」

「ん、そうだな」

「でも、今はいいです、凄く…幸せだから」

「ん」

「…私のことを沢山……愛してください。私のことをもっと知ってください。……好きです」

…堪らなく…好き。恥ずかしいから回された腕に手を絡めながら話した。…あ…首や背中に唇が触れた。

「…俺も、好きだよ。沢山……愛させてほしい…体も、心も…」

甲斐さん…嬉しい…。
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