可愛らしさの欠片もない
ピンポン、ピンポン。
はい、誰だろう。
「はい?」
あ。女性だ…。こんな綺麗な人…。うちに用がある人ではない。でも。
「あの…」
ピンときた。
「咲来優李さん?」
「はい」
「私は…」
「…杏胡さん」
「そう、甲斐、杏胡。名前、知ってたのね。甲斐に聞いたの?」
…それは違う。…やっぱり甲斐さんの奥さんだ。
「お邪魔しても構わないですか?」
「はい、…狭い部屋ですがどうぞ」
こっちから会わなくても、いらっしゃいましたよ甲斐さん。
「ではお邪魔します」
ピンヒールを履いた脚はすらりと長く足首は折れてしまいそうな程細かった。モデルのような人だった。甲斐さんとつき合うようになって、甲斐さんは会わせないと言っていたが、そんなのは無理、遅かれ早かれ、いつかこんな日が来るような気がしていた。
一度だって彼女に会ったことはない。甲斐さんがそれはさせないと言ったから。はぁ…でも、うちの部屋に来ていては跡をつけるのも簡単。調べさせるには日数さえかからなかっただろう。…あ。待たせてしまったかな。
「すみません、ボーッとして。どうぞ、かけてください」
いつも甲斐さんが腰を下ろすソファ。同じところに座ってほしくはないけど。他に勧められる椅子もない。
「今、冷たい物でも…」
ソファに腰を下ろすとぐるりと部屋を見渡された。どこの、何を見ても甲斐さんの物は何一つない。
「一人だと丁度いい感じね」
あ…そんなことを言われても、だって一人暮らしだから。
「…どうぞ」
ストレートティーを出した。
「有り難う」