可愛らしさの欠片もない

…意外。お礼なんて。さっきから違和感がある。なんで平気な顔をしてるんだろう。
私は謝らないといけないのだろうか。私が家庭を壊したという張本人なら謝る。でもそれは違う。私と甲斐さんの今の関係が間違っているという人が居たとしても、私は甲斐さんとの関係で謝るつもりはない。
奥さんは何をしに来たのだろう。存在を確かめに?…自分の立場を弁えなさいって?

「駿脩とは最近のことよね」

テーブルを挟んで前に正座した。

「……はい」

甲斐さん、私は質問に正直に答えていいのよね?

「驚いたわ、実妃と同じ職場だったのね」

何もかも知ってるんだ。知らなければ来ないか。

「はい」

「どうして?」

「え?」

「どうして、駿脩は、どんなに遅くなってもここに来るの?」

え?そんなこと……。知られてるのは仕方ない。だけどそれ以上の想像はされたくない。

「私に聞かず、本人に聞いてください」

…あなたのところには帰らない生活をしていたかもしれませんが、私のところには来ます。時間が遅くなっても。…今の間だけかもしれませんが。

「遅くなったら帰って来なかったのよ?」

「え?」

「ホテルに泊まるからって。また呼ばれるかもしれない、ここからの方が早く行けるって」

…そんなことを話されても。昔の事情は二人にしか解らないのに。

「仕事人間よね、寂しくないの?…ねえ、どう?」

今の関係ってことだろうか。

「解りません」

寂しいと感じてしまう程待ったことがない。帰らない甲斐さんを待ったことがない。来るっていう甲斐さんしか知らないから。
強気に、寂しくない、なんて言わない方がいい。

「私のこと、往生際が悪い……聞き分けのない女だと思う?」

私が家庭のこと、夫婦のこと、何もかも知ってるとでも思ってるのだろうか。

「…駿脩の思うようにはさせないの。あなただって騙されてるのよ?」

誤解してるって言ってた。先輩とのことだ。
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