可愛らしさの欠片もない
ピンポン。
「優李!俺だ、優李」
「はい…」
甲斐さん。いきなり外から呼ぶなんて。
カチャカチャ。カチャ。
「はい?どうしたんです…」
か。わっ。
「…優李…」
あ…甲斐さん。抱きしめられた。
「…急に来るなんて、……びっくりしました」
あ。肩を掴まれ離された。
「何言ってる…優李、何をしたんだ。あいつに何を言ったんだ?」
そんな。物凄い圧…感じる。
「え?あっ…」
掴まれた肩を激しく揺さぶられた。そしてまた抱きしめられた。
「優李…はぁ、一体何をしたんだ……優李…」
どうしたんだか、さっぱり…。
「何のことですか?よく解りません」
「…あいつが離婚するって」
「…えー??」
ググッと更に深く抱き込められた。
「杏胡に何を言ったんだ。ここに来たんだろ?」
声が体にも、よく響く。
「え、…本当ですか?離婚て」
「ああ、本当だ。いきなり俺のところに来て、離婚、早くしたいから、手続きしてって」
「あー、流石ですね」
早かったな…。自分に自信がある証拠だ。
「は?何がだ。俺にはさっぱり解らない。だけど、ここに来たって、優李に会ったって。だから離婚するって」
「フフ、良かったですね」
「優李…」
自分のこと、よく解ってる。時間を無駄にするなんて馬鹿らしいって。そう思ってくれたんだ。どんな理由だっていい。本人が納得できて離婚するなら。後から揉めることにはならない。…良かった。綺麗さっぱり離婚となった訳だ。
「あ、ああ、だけど、どうなってる…俺にはさっぱり…」
「私にもさっぱり?」
惚けてみせた。
だって、私に、離婚するなんてことは言って帰ってないのだから。