可愛らしさの欠片もない

「…優李…。何もされなかったのか?…顔は?顔は大丈夫か?叩かれでもしなかったか?よく見せてくれ」

忙しない。今度は顔を手で挟まれ左、右と、くまなく確認された。女同士、真逆の立場の者が対峙した。手をあげたのではないかと心配された。叩かれたりしてません。私には興味ないみたいでしたよ?カッとしたら手が出る人なんだ。それは怖かったな。

「何も。安心してください、何もされてません。叩かれた代償に離婚を承諾ですか?…そんな簡単なことではないでしょ?」

「じゃあ、なんだ、交換条件は何だ、ん?
…俺と別れることか?…そうなのか?」

交換条件なんて必要なかったってこと。首を振った。

「…何も」

「何も?」

甲斐さんと直接の話、弁護士を介したとしても離婚は意地になるばかりだけど…女性の魅力の話ならすんなり受け入れたってこと。

「はい。ただ…」

「ただ、なんだ?優李…」

「フフ…フフフ。ただ、褒めただけです」

「褒めた?何を」

「見たままを、です。とても綺麗な方だったので。それだけです。それで帰って行ったんですよ?だから、私にも離婚を承諾した理由なんて解りません」

「優李…。本当に何もされてないんだな?酷いことも言われてないのか?」

「はい」

この通り、どこも、と、回って見せた。

「はぁ、優李。離婚の手続きは弁護士に連絡した。もう、明日にでも書類は出せる」

「……はぁ、そうなんですね。…良かったですね、甲斐さん、お疲れ様でした」

「優李…こんなにあっさり……今までなんだったんだ…」

抱きしめられた。はぁと息を吐いた。望み通りになって良かったですね。…ちょっと躊躇いつつ背中に腕を回した。

「…これで、晴れて独身ですね。甲斐さんはもう自由です。甲斐さんは…別居からだと長かったですね。私は関わったのは数日ですけど。やっと一緒になれますね。大好きでした、甲斐さん」

抱きしめられていた腕をほどいて体を押した。後ろに下がった。

「あ…優李?…どうした…」
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