可愛らしさの欠片もない
二人で先輩を駅まで送った。
もらった花束を抱え、手を振って帰って行く先輩を改札に入るまで見守った。…久田実妃さん、…お疲れ様でした。元気な赤ちゃん、産んでくださいね。
「大島さん、コンビニ、寄ってもいいですか?」
何事もなかったように話しかけた。
「…え、コンビニ?あ、カップ麺でも買うの?新商品でも出た?いや、限定のスイーツ?」
気を遣って明るく返してるってありありと解る、本当、いい人だ。
人って、違う…私って、何故、いい人に素直に惹かれないのだろうか…。
「フフ、違います。カップ麺はストックがまだあります、最近、食べてないんで」
「ハハ。いいよ、寄って行こう。俺は…朝飯になる物でも買って帰ろうかな…」
「あ、ジョギングは?」
「明日は休み!」
「あー、そう言って、毎日が休みなんじゃないですか?」
「バレたか」
「ハハハ、暑いから休みとか、言ってそうですね」
「それそれ、暑いんだよね、朝だって」
「ハハハ…フフ…」
「……大丈夫?」
「大丈夫ですよ、大丈夫です。あ、コンビニ、見えて来ました。本当…探さなくてもどこにでもありますね。
…今日は電車には乗りません、歩いて帰ります」
「じゃあ…俺も歩いて帰るよ」
一人になりたくて言ったつもりだったのに。逆に、一人にしてはいけないと思わせてしまったかもしれない。お節介…優しい人だ。
コンビニに入った。私は冷蔵庫に向かった。
「何?炭酸水とか?沢山で重くなりそうだったら持つよ?」
「違いますよ、これです」
一本だけです。取り出して見せた。
「チューハイ?あ、でも、なんで?飲めないのに」
「飲めないけど、飲むことを決めてることがあるんです、そういう日に買うんです」
「……へえ…」
どんな意味かを言ってしまったようなものだ。
「この感情でのは…、大分、久々ですね…」
呟いてズキンとした。酔ってもないのによく喋る口だ。
「…俺も買っちゃおうかな…。もう煩く言われないから」
「健康管理、ちゃんと自分でしてくださいよ?寂しいお酒ですね~」
「ん?ああ、男一人、寂しいもんだな。これからは冬の寒さが身に沁みるな…ハハハ」
「ハハ。…帰りましょう?」
「あ、ああ、うん、待ってよ…、じゃあ、ツマミもいる。ああ、これ、旨そうだな…」
「先に出て歩いてますから」
「あ、うん、すぐだから」
ヒタヒタと足音が追いついてきた。
「…はぁ、歩くの早くない?」
手にした袋は大分膨らんでる。おつまみ、きっと沢山買ってしまったんだ。
早く帰りたいって、もう限界が近いって、思われてる。
「早歩き、ウォーキングですよ」
気を遣わせないように話を返すのももう…難しくなってきた。でも、そんなことはバレてる。
「そうだな、これで、明日のジョギング分にしよう」
涙が溢れる前には帰ろうとしてるって。
「……甘いですね」
声が震えそうになった。
「ああ、甘い。咲来さん…、自分に甘くなってもいいんじゃない?」
「…え?」
こんな返し、されると思わなかった。
「何もしないから。って、これ、下心がある男の常套句かな…。でも、本当に何もしないから、俺んち来ない?」
「え?」
その言葉は駄目です。
「泣きたいときは泣いた方がいい。何もしないから、この、大島さんの胸を貸してあげるから、あ、加齢臭がするかな。じゃあ、気になって心置きなく泣けないな…」
本当いい人だな…大島さん。じゃあここでって、関わらない、放ってしまう方が楽なのに。
「加齢臭なんてしてないですよ、コジマさん」
迷惑はかけたくない。大島さんの気持ち、ハッキリと聞いたばっかりだ。真面目にならないよう、笑いにしておかないと。これは精一杯の、今できる返しだ。
「だから、大島だって、ハハハ…」
「フフ。……フフフ…」
駄目、泣きそうだ。