可愛らしさの欠片もない

ピンポン。ピンポン。ピンポン

……ん゙……誰ですか?…うちに来る人なんか居ませんよ…。

ドンドンドン。ピンポン、ピンポン。

止めてください。怖いです。心臓がどうにかなっちゃいそうです。

「優李、俺だ。優李、居るんだろ?優李」

ピンポン。ピンポン。…。

……甲斐さんだ…夢でも見てるんだ。うちに来る用なんてない。

「開けてくれ、優李。優李…頼む、開けてくれ」

ドアの鍵なら確か開いてる。ノブを回せば入れますよ?
…気がつけばですけど。

カチャ。
あれ、気がついたんだ。……凄いな。

「入るよ?上がるぞ?」

どうぞ勝手に…。ゴトゴトいってる。靴を脱ぐ音が忙しないな…。

「優李!…あぁ、居た…はぁ。メールの返信はない、電話も出ない、心配するだろ」

別に、もう私、心配されるような立場には居ませんから。

「優李、大丈夫か?…おい」

大丈夫ですって。大きな声を出さなくても……聞こえてますから…。

「ご飯、食べてるのか、どうなんだ、…こんなに…やつれて…優李…」

頬に手が触れた。抱き起こされた。…え?私、やつれてるの?……そうなんだ。
それより、どうして、甲斐さんが…こんなに血相を変えて。一体どうしたんですか…。

「優李、誤解してるって言ってるだろ。…どうして思い込むんだ。いい加減にしないと怒るぞ…」

何を誤解して思い込んだんだって?
……頭の中で木霊する。

「杏胡に何を聞かされた…何を関連付けて思い込んだ。久田の子供の父親は俺じゃない。そんな馬鹿馬鹿しいこと…いいか、よく聞くんだ。俺は父親なんかじゃない、関係ないんだ。
久田は…性格のいい奴だ。基本そうだ。だけど、そんな久田でも、多少の意地悪をするんだ。自分が昔好きだった男、その男が自分から頼みごとを言ってくるなんて。それに多少なりとも嫉妬したんだ。だから、子供のこと、含みを持たせたんだと思う。諦めきれないなんて言ってるのはもうただの口癖みたいなものだ。気持ちはとうに割りきれてる。そういうもんだ」

え?…口はパクパクするだけで、声が出ない。
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