可愛らしさの欠片もない

「……声、出ないのか?あぁ、優李…」

抱きしめられた。……甲斐さんだ。あぁ、甲斐さんの匂い…。

「…どうしてこんなことに…。水、水はあるのか」

ゆっくり寝かされた。……どこかに行った。
冷蔵庫を開けているようだ。


「優李、飲むんだ。…優李」

枕を高くしてあごを挟むように掴まれた。口を開けられたんだ。どうやら強制的に飲まされるようだ。…冷たい。柔らかくて濡れた唇が口に覆い被さった。

「ん、ん゙、……ぐ、…ん…」

二度、三度と口移しで注ぎ込まれた。

「優李…声、出るか?…ゆっくり…」

「……は、い」

「あぁ…、優李、優、李」

「甲斐さん…私は…」

「会社、休んでるんだ」

そうなんだ。いつからだろう?

「帰ってくださいって俺を押し出して、それから…」

「あ、私…」

涙が滲んだ。溢れそうになった。顔を見続けていた甲斐さんの指がそれを拭った。心配そうな顔……甲斐さんのこんな表情…初めて見たな。……フフ。

「優李…久田のお腹の子の父親は、うちの部長だ。それを言わなかった久田も久田だけど」

「え゙…んん。どう、いう…え?」

「訳が解らなくなるのは、優李が思い込んだからだ。自分で考えた通りだと、それで全てが終わったと完全に思い込んで聞かなかった…俺のことを部屋から押し出した」

あ。それからの私は…。ゆ、め?…どこからが?

「優李、起きられるか?」

「は、い」

甲斐さん…。上半身を起こした。後ろの枕にもたれた。

「…甲斐さん…本物?」

頬に触れた。体温がある。

「当たり前だ、本物だよ…」

…あぁ。頬に触れた手、手を重ねられた。

「……はぁ…甲斐さん…」

しがみつくようにゆっくり抱きついた。
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