可愛らしさの欠片もない
「…落ち着いたか?」

「……はい」

「…優李、一緒に暮らそう。新しい部屋、探そう」

「はぁ、うん。あ、でも」

「ん?」

甲斐さんの部屋に行ってみたいと思った。

「ううん、なんでもない」

「また…駄目だぞ、考えて言うのを止めるのは」

「心配のないことです。言わなくても、何も心配のないこと」

「本当にそうか?」

「はい、うん」

そんな部屋、あったのだろうかって。…なんて、ね。あ、甲斐さん、指輪がなくなってる。…女避けはいいのかな。左手を触った。指が長くて私より大きい。色が白くて…血管が透けてる…あ、絡めるように組まれた。

「ああ、指輪のことか。…外したから大変なことになるな…」

「え…、じゃあ、やっぱりしてた方が…」

「するよ、直ぐに。するなら、新しい、優李との指輪だろ?…はぁ、優李…」

あ、…。後ろから抱くようにして腕を回された。

「勿論、私とのです。絶対、外させませんから…」

手を取られて左手の指、何度も指を滑らせた。

「ハハ。怖いな。外して無くしでもしたら大変だ」

頭に顎が乗った。

「だって、甲斐さんは…」

私のものです。私が人生で一番勇気を出して頑張って手に入れた、私の大事な…。

「宝物なんです」

首を動かして振り向いて見上げた。

「あ、優李。嬉しいけど俺はそんな大層なもんじゃないぞ?」

首を振った。そんな大切なもの…、私は勝手に想像して、辛い思いを勝手にして、想像の中で失ってしまった。だから、…どれだけ失いたくないかって、それを経験した。
はぁ、と息が洩れ、顔の横に顔が並んだ。ギュッとされた。凄く力強い…。
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