可愛らしさの欠片もない
「いいんじゃないの?想像なんだから。何を想像しようと別に罪になるわけじゃない」
「そうですけど…」
この程度でもういいだろう。あまり、…想像の域がどこまでなのか、…変に思われたくもない。
「縁、て言ったかもしれないけど、本当、縁があるなら、否応なしにまた会うさ。そういうことだよ。それが不思議だけど縁というものだと思う」
運に任せていれば、ことは自然の流れになるってことなのかな。…そんな、自分に都合よく解釈してたら、やっぱり逃してしまうんじゃないのかな。出会いまでの縁は作ってやったのだから、後は自分で頑張りなさいって。…かといって…だ。
「だってもう、次も偶然会えることしかチャンスはない訳だし。二度目に会ったときにさ、何かしらアプローチしてたら、今頃、今の俺みたいに、ご飯に行ってたかもしれない。こうして部屋に招き入れてたかもしれないよ?」
あっ、と声が出た。思わず顔に手を当てた。感情が関係してるから、こんな風には上手くは運ばないだろうけど、それでもだ。
「でしょ?ちょっと違うのは俺は元々全く知らない人間ではないから、そこは話しもしやすいだろうし、誘いにも乗りやすいってことかな。いきなり名前を聞くのも難しい。まして連絡先まで聞こうなんて……抵抗があるよね、言われた方は」
「そうですね。……あぁ…」
大島さんは…知らず知らず色々と親密な話をしたあとだったから…。
「そう。やっぱり、きっかけが何かないと、全く知らない人間に接触するのは難しいってことだね。まだ学生の方が素直に聞いてもらえそうじゃない?突然、好きになりましたって言っても、それはよくある告白だよね。それを君が同じように出来るならそうしてみるのもありなんじゃないかな。むしろ、素直にそうするしかないよね」
「ふぅ、はい…ですね。あ、私も麦茶…」
テーブルに手をつき腰をあげてキッチンに入った。
……偶然会えたとして、そのタイミングを逃さずに告白まで一気にしないと進展はないってことだ。はぁ…、まあ、至極当たり前のことではある。だけど、今更ながらとても勇気がいるんだよね。はたして、あの人はそこまでしたい相手なのか、だ。見てるだけで満足なのか、そこが重要なポイントだ。
グラスを取り出したまま微動だにしなかった。
「俺、そろそろ帰るよ」
「……あ、あ、は、い」
不意に我に返った。
…大島さんは…一体…。
「あ、待ってください。……今更ですが、タオル…」
汗はほぼ引いてるだろうけど。
引き出しから取り出し渡した。…もう、遅いって。使ってもらうならとっくに渡してないと。
「すみません、すっかり、今更になりましたけど…」
「ううん、有り難う。使うね?」
「はい」
顔や首元を押さえるようにして拭いた。それを受け取った。
本当、大島さんとは妙な関わり方になってしまった。こうして居られてるのが不思議でならない。