可愛らしさの欠片もない
あー、……やっぱり止めようかな。…んー、んー…。もう言いかけたんだから言うしかない。
「動悸、ですか?大丈夫?」
「あ、はい、いいえ、そうですが大丈夫です」
慌てて胸に当てていた手を下ろした。
両手を握りしめた。…ふぅ。
「…あなたを見かけて。可能な限り見続けました。それで私…私は、あなたに惹かれました。…ずっと忘れられなくて。ごめんなさい、いきなり聞かされる気持ちも考えず。…気持ち悪いですよね。
いつも偶然に頼っていてもそれは続かなくなる。案の定、見かけることはなくなってしまいました。突然、こんなこと、言われる身になったら……ごめんなさい、まるでストーカーのようなことを言ってますよね」
「いいえ、大丈夫ですよ?」
気持ち悪くないのかな。あ。…もしかして、…全く相手にされてないってことかな。やっぱり正気ではないと。聞いてくれているような素振りで、あしらわれてるのかもしれない。……ふぅ。だとしたら、私は後悔のないようにするだけだ。
「…私、この気持ち、独りよがりだってことは解ってるんですけど、でも、伝えなければ、始まらない、終わりもないって思って。それで、今日は、普段に会えなくなったのなら、休みの日でもあるから、時間を延ばして、……ずっと居てみようと思って。ごめんなさい、本当気持ち悪いことをして、言って」
…若気のいたりではない。ものの道理、分別はつく年齢なのに。こんな…気持ちの押し付け…迷惑行為に違いない。
こんなに人が行き交う中で、大胆な発言を。
でも、会いたかった人に会えた。それは粘った甲斐があったと思う。……これで最後かもしれない。次からは見かけたとしても、気づかれたらきっと避けられてしまうだろう。
一方的ではあっても気持ちは何とか伝えられたと思う。すーっと気持ちが落ち着いてきた。