可愛らしさの欠片もない
あっ。…う、そ…。え、まさかこんなことが。……えー?いいの?こんな立て続けにラッキーなんて。…信じられないんですけど。
朝見かけたあの人だ。少し前を歩いていた。多分間違いない。この髪型…頭の形、身長、肩から背中の感じ。………一体いつから居たんだろう…。何でもいい、そんなのどうでもいい。凄い偶然…。ちょっと…勝手に運命感じちゃうかも…。
あー、でもこのまま歩いて行ったら、私は駅に入るんですけど。どうなんだろう、この人はどこに行ってるんだろう。あなたも駅へ?
あ、なんだ…そのまま行ってしまうみたいだ。……残念。そう何もかも上手くはいかない、か。……こうなったらちょっとだけでも跡をつけたい気になった。…でも、それはちょっと怖い行為。名残惜しいけど……ん゙ん゙…ん゙……できない…。短い葛藤の末、私は帰るべき駅の方へ折れた。
殆ど無意識だ。確認しているようでしてないような物。習慣とはそんな物だ。待っていたホームに入って来た車両に乗った。間違ってはいない。目の前の席が空いていた。珍しくすんなりと座れた。なんだかラッキー続きだ、…フフ。コンビニに寄って帰ろうかな、なんて思う余裕があった。
……それにしても…気候に文句を言っても仕方ないけど、日に日に蒸し蒸しと暑くなってきた。夕方になってもまだ暑いなんて…。襟元を掴んで少しパタパタとさせた。
………転勤とかでこっちに来たばっかりとか、かな。やっぱり今日だけここら辺に用があっただけとか。あ、面接、とか?…でも、ないことはないけど、年齢的にそれはどうかな…。転職……するかな…?それもちょっと違うような。ヘッドハンティングならありそう。…夕方まで一日がかりの用があった?…一日がかりかどうかは解らないけど。
んー、いずれにしても、少しは縁があったのかな。……短い停車時間、もうとっくに発車してるけど。あれから滑り込んでどこかの車両に乗ってるってこともないだろうけど…。少しだけ期待を込めてキョロキョロしてみた。見える範囲は限られてる。……んー、そこまで運は持ち合わせてないか…さすがにね…。
駅を出てコンビニに立ち寄った。
入店して直ぐ冷蔵庫に向かった。久しぶりだ。それを探しあて手にすると、自然と笑みがこぼれた。よく冷えていた。
会計を済ませた。他の物には一切目もくれず、あっという間に買い物は終わった。
小さい袋を手に我が家を目指した。足取りはいつもと違って自然と軽かった。必要以上に袋を振りながら歩いた気がした。
はぁ、ただいま……お疲れ…。
備え付けの下駄箱の上の皿に鍵を置き、廊下を進んでキッチンで手を念入りに洗った。荷物を置き浴室に行き足を洗った。…ふぅ、さっぱりした。
取り敢えず缶を取り出してソファーに座った。
プシュッと開けたチューハイに口をつけた。…はぁ…。ん。いつも思う、これ、美味しいのか?って。
これ以上は多分それほど減らない。ソファーに置いてあるシロクマのぬいぐるみに手を伸ばし抱いた。時々、枕にもされて……この子も長く一緒に居るわね…。ふぅ。
「…はぁ、お疲れ。良かったね~今日は…眼福、眼福。…本当、久しぶりに見たよ、素敵だと思う人…」
…そして、独り言の話し相手にもなり、だ。