可愛らしさの欠片もない
「ん?」
あ、何か覚られてしまった。そんな気がする。…話してみようか。
「……軽蔑しませんか?」
……顔を、見直された。
言おうとしてること…、もしかしたら解ってしまったかもしれない。私は浅はかだから。
「…しない。もう大概なことでは驚かないよ。君は奇想天外だから」
奇想天外。発想が奇抜…。そうだと思う。今から伝えることは意思疎通出来なければ性格を疑われる…。
「そういう奇想天外なところが解るのだから、あなたも奇想天外の持ち主なんですよ」
理解してほしい。
「…我が儘だし」
我が儘だって思ってるんだ。そうよね、我を通そうとこうして引き留めてるんだから。
「はい、私も」
「軽蔑はしない。同じだと思う。多分、俺の考えていたことも同じだから」
同じ…。体がズキンとした。…それしかない。そうするしかない。
「…お待たせいたしました。まだ試作段階の物で、味も確立してなくて、どうか正直な感想を聞かせてください。…どうぞ、…ごゆっくり…」
アンケート用紙も置かれた。何故だか知らないが絶妙なタイミングで提供された。考えてみれば、なんとなく強引と言えば強引にだ。仕方ない…並べられたスイーツを目にして重苦しかったものが緩んだ気がした。
「フ、はぁ、まずは…これだな」
「はい。…軽蔑することは、…この後で」
「…ああ、…そうだな」
これで思ってることが同じなら…。
試作段階というのは嘘だと思った。世の中は、いいことに使っていい嘘は許されるようにできている。
ピンクとグリーンの外郎を小さくサイコロ状にカットして混ぜ入れているミルクかん。白に淡い色合いが目に涼しい。
口の中でひんやり柔らかく、舌で程よく別れて溶けて、…冷たい。外郎を転がし、噛んだ。ほんのり甘い。冷たいものは甘みをそんなに感じない。だから実はかなり甘くても気がつかないのだ。口の中で温まった外郎は甘くなった。
それと最近よく耳にも目にもする『バスチー』だ。
一口頬張り珈琲を含んだ。芳醇なチーズが濃厚で珈琲とよく合った。とても相性のいい組み合わせだ。舌にねっとりと貼りつき仄かに甘く、苦く絡み、溶け合った。
軽蔑…それは…。お互いに認め合った。同じことだった。…繋がりをもつこと。
甲斐さんは私の部屋に来た。そして、朝帰りした。