可愛らしさの欠片もない
「お、は、よ、う。今朝も早いわね」
「…あ、おはようございます」
……そちらも、いつも規則正しいですよね。
「なんかあった?」
「え゙?」
「え?そんなに驚くこと?フフ、挨拶じゃない、普通の意味のない、フフ」
「あ、はい、そうでした…すみません、ボーッとしてて。ハハハ…」
そうだ、何もなければ、何もないですよ~って呑気にいつも条件反射で返していた。…ふぅ。ナニかを知ってるはずもない。
「ん?…休み明けだもんね~、月曜はみんなに嫌われちゃって…。体も怠いしね…これはいつもね」
…。
「ん?」
「あ、はい。本当、…怠いですね…」
怠い…怠くて堪らない…。生欠伸がでる…。
「本当に何かあったんでしょ」
「…え?」
「ほら、フフ解りやすい。そうだ、例の人はどうなったの?素敵な人…」
…そこ、来ますか。偶然でも話題にされるとなんだか知ってそうで恐くなります。
「あれ……聞いちゃいけなかった?…ごめん。ごめんごめん」
……なんだか、本当に…解ってるんじゃ…。そう思いたくなってしまう。
「あ、いや、大丈夫です、違うんです、大丈夫です」
抱えてしまうと聞いてもらいたくなる。だけど、どうなったかなんてそれは言えない。…私は、今、世間的にはよくないつき合い方を始めてしまいました、なんて。相手はどんな人よって、なってしまう。……そういう人なんだけど。
「ん~?…会えてないの?」
「え?」
それは…。
「…そうですね。電車でタイミングよくってことはなくなりました」
核心は避けた返事。でもこれは本当だ。最近まで…探し続けても会えなかったんだ。
なんだか随分昔のことみたいに思えてきた。でも、2時間前までは確かに一緒に居た。
「…そうか。でも、それもポジティブに考えるかネガティブに考えるかで全然違うからね。単純でいいのよ、単純で。ただ一本変えたんだってね思えばいい。電車なんて分刻みで通過するんだから、決まった車両もあるようでないのかもってね。あとは、住まいが変わったとかね。それでも基本に変わりがなければ違った場所で会うことになるかもしれないじゃない?
……そんな、不安な顔にならなくて大丈夫よ。運があれば会えるから」
「え?」
「なんか、あったんでしょ?別に聞かないけど」
返事も悪いし、バレバレになっちゃうよね…。
「はい。…すみません」
言えない。この件に関しては決して。明るく進展したのとは違うから。
「謝ることじゃない。…話し辛いことは言えないよ。また無責任なことを言うけど……きっとその内、…晴れる日が来るわよ。人生はプラマイゼロっていうから」
「はい」
プラマイゼロか……。このことに限らずってことよね。人生、トータルでってことだ。
例えば、駄目になりかけてた相手とよりを戻せたというような一つの物事の範囲の中でのことではなく、失恋した、でも、宝くじが当たった、とか、そういうプラマイゼロってことだよね…。