可愛らしさの欠片もない

「そう言えばさ、最近、噂話の類い、聞かないね。ネタ切れかもね」

あぁ。

「そうですね」

会社の中のことに限れば、噂にするような話もそんなにないだろう。それ以外の世界のことなら、みんな興味のあるものも違うし、知りたいことは自ら調べて知ってるだろうし。

「さて、と、行こうか」

「あ、はい」

ドアが勢いよく開いた。

「おはよう。危ないギリギリ…」

こういうの、噂をすればなんとやらだ…。本当にことわざって、言い当ててしまうから何だか凄い。だから、本人の居ないところで迂闊に話をすることは止めた方がいい。そうでなくてもだ。

「遅くなっちゃった、もう行っちゃうの?」

ガタガタといつになく忙しない。

「だってもう、本当、始まっちゃうよ?」

「そうだった、急がなきゃ」

「……行こう。じゃあ、お先に」

「あー、聞いてほしいことがあったのに。まあいいわ。帰りにでも…」

…。

話は続いていたと思うけど、出てドアを閉めてしまった。

「……大丈夫ですか?」

閉めちゃって。

「いいのよ。つき合ってたら本当、きりがないから。大丈夫、平気よ。こんなこと、きっとなんとも感じてないから。今の彼女の頭の中はその話したいことで一杯だから、多分」

…。

「帰りも、同じタイミングにならないようにあがらないとね。あの人は定時には帰る人だから、ちょっと仕事をしてたら一緒にはならなくて済むと思うし」

…。
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