可愛らしさの欠片もない
「…どうしたの?大丈夫よ?」
「あ、はい」
「いい子だから、私が邪険にしたこと気の毒に思ったんでしょ」
「え、いえ、私は別にいい子なんかでは…」
「優しいからね。でもさっきのタイミングで相手にしてたら大変よ?本当に遅れちゃうから。…処世術よ」
「処世術…」
「困らされてばっかりいたって埒はあかない。だったら、気にしない、関わらない術を考えないと。相手に黙って従っていれば、敬遠していたはずが、嫌でも慣れて解らなくなってくる、麻痺して鈍くなってくる。いつ自分が当事者にされるか解らないのよ…噂する側になることだって、知らず知らずになってるかもしれない。…傷付いてしまうことだって、何度も経験すれば立ち直りは早くなるかもしれないけど、だからって、傷付いていいってことではないでしょ?傷付かないで済むなら回避した方がいい」
「はい…」
「あー、朝から説教臭くなっちゃった。あ、給湯室、通り過ぎちゃった、ハハハ」
「あ、私、パパッとするんで、大丈夫です」
向きを変えた。
「うん、じゃあ、よろしくね」
「はい」
走ってはいけない。早歩きで戻った。当事者か…。今のところ……会社の中でのことではないから、大丈夫かな…。
甲斐さんとのこと……自分のことだ。自分でなんとかしようとした結果。それが後悔のないことだと思ったんだ。そうでしょ?だったら、よくない、って善人ぶってる気持ちは所詮綺麗事よ。どうなるかは解らない、だけど今、甲斐さんと居ることを大事だと選んだんだから…。
「おはよう。お湯、沸いてる?」
あ。