可愛らしさの欠片もない

「…はい、お待たせしました」

戻ってみると何だか楽しげに談笑していた。

「あ、ごめんね、有り難う」

グラスを手渡した。
私も元の席に座った。

「ジョギングしてるんだって、大島さん。それも早朝に」

……え、早朝?…どこら辺りをだろう…。

「出勤前になんて凄いですね、健康的ですね」

当たり障りのない発言をした。
大島さんは頭を掻いていた。

「時間ができたっていうか、夜だと不審者扱いされると面倒臭いし、朝なら走ってる人もちらほら居るから。それに、すっきりして朝御飯も美味しいですよ」

「へぇ。私も走ってみようかな。でも、急には無理ね。全然運動らしいことしてないから。挫折は目に見えてるわ~。まずは…」

「ウォーキングが無難ですね」

「そう、それ、ウォーキング。早歩きは得意だから」

肘を曲げ腕を振って見せた。

「ハハ、いいと思いますよ」

……なんだか、話が合うみたいだ。…一緒に走っちゃえばいいのに。

最近増えたドリンクメニューから、私はソイラテを好んで飲んでいた。砂糖は入れてない。少しだけど甘みがあるような味だ。豆乳がいいと聞けば何でもそうしてしまう。どれだけ情報に左右されてるんだか。言ってること、後々変わった食品だってあるから、豆乳だって良いということが何か変わるかもしれない。一つの飲み物だってくらいのこと。そう思っていればがっかりすることもないかも…。

「……ね、いいでしょ?」

「え?はい?」

「もう…、また上の空…。だから、三人でご飯に行こうかって話」

いつの間にそんな話に…。全く会話に興味を示してなかった証拠だ。

「いいよね?今日」

もう決まってる…。今日?あ、そうか、用もあるってことで、帰りに“彼女”に捕まる可能性もなしにできるってことだ。
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