可愛らしさの欠片もない

とにかく、早く…。
シャワーを勢いよく出した。あ、髪、濡れちゃう。顔、どうしよう。もう…嫌…。慌てて準備なんてしたくない。
取り敢えずボディーソープを泡立て全身泡だらけにした。焦っては駄目だ。よし、あとは剃るだけ。…変に傷はつけないように気をつけなくちゃ…。足首に剃刀を当てた。
……私、こう見えて、皮膚が弱いのよね。いくら肌に優しい剃刀だといってもやっぱり肌が負けちゃうし。剃ったあとはボディクリームを塗りたいけど、でもそれだと……。

…ふぅ、いいかな、これで。剃り残しなんてないかな。そんなのある方が却って恥ずかしいから。あまり長く居ると汗が…。私、汗かきだし。そうなると髪も気になる、そしたら、顔だって洗いたくなっちゃう。ゔ……。どこまでしたらいいの。もう、どうしたらいいの。

「……甲斐さ~ん…」

情けない声だ。思わず中から呼んでいた。弱々しい声だ、聞こえたかな。
足音が直ぐ近づいて来た。

「迎えに来いって?」

「…違います」

「…どうした、具合でも悪くなったか?」

はあ…良かった。いきなり開けず声をかけてくれた。

「……冷めること、言ってもいいですか?」

う、言ってるそばから…益々冷めさせちゃう…。

「はぁ、違うのか、どうした…」

「……今日、……止めたいです」

……。

ここへ来て何を言ってるんだって話だ。
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