可愛らしさの欠片もない
重要なことと、このこと。どっちが大事だって。でも私にとっては……泣きそうなくらいのことだ。パニックがおきてる。
「どうしたんだ?」
「……色々…してたら、…切羽詰まってきて、…無理になりました。…もう、泣きそうです」
う、う。…シャワーで切羽詰まるなんて…意味は全く解らないだろう。
「…どうした」
浴室のドアが開いた。
「あっ、駄目。駄目ですってば…」
体を隠しながら背中を向けた。
「だからどうした」
裸を見ることは全く気にしてないって感じだ。あなたは…お医者さんですかって…単に私の体…魅力がないのかもしれない。
「……だって…急なことで、なんとか間に合わせて、大丈夫って思ったけど、そしたら別のことでやっぱり余裕がほしいとか思い始めて、気になることが一杯で、……でもそんなこと言ったら、そんなつまんないことでとか言われそうで、でも、私は嫌なんです。私にとってはつまんないことじゃなくて…凄く気になることで…」
よく解らない説明でめそめそ泣いてしまった。なんて面倒臭い女なんだろう。
「何をそんなに気にしてる…」
「だって……初めてなんですよ?今日が」
急にこんなことになるなんて誰が想像できるの…。普通に告白してどんなに情熱的になろうと、…その日になんてあり得ない、…許さないから。だから、こうなるなら余裕をもって綺麗にしておきたかった、自分なりに一分の隙もない納得のいく状態で。肌のケアだって…普段からしておけば何の問題もなかったけど…。
「…そうだったのか」
「あ、違う、それじゃなくて…そうじゃなくて、甲斐さんと、初めての日じゃないですか…」
それ、初めて違いですから…。
「ああ、そうなるな」
「何をどこまでしたら大丈夫なのか…解らなくなったんです。お化粧も落としたいけど落とせない、もたもたしてたら汗が吹き出してきて全然引かないし、髪は濡らさない方がいいだろうと思ってもこうなったら洗いたくなっちゃったし、とにかく簡単になんて済ませられなくなったんです」
ムダ毛を剃るのが元々の止めたい理由だとは言えない。ぐすぐすと泣いた。たかがシャワーでわあわあと。滑稽に見えてるだろうけど、涙が出てしようがなかった。