可愛らしさの欠片もない
「……はぁ」
ああ、もう、きっと呆れ過ぎて声も出ないんだ。
「ヒャッ」
腕が回された、不意に抱きしめられた。…甲斐さん?
「…最初から言ってる。俺は気にしないって。聞いてなかったのか?…泣くほど思い詰めるな」
「だって。……あ、甲斐さん、濡れちゃう…」
「もう濡れた、びしょ濡れだ。服、乾かさないと帰れない。…今夜は泊まるからな…」
あっ。
「もう、洗い終わってるんだろ?」
抱き上げられた。…恥ずかしい。うん。うん、と頷いた。
「じゃあ、いいだろ」
「…でも」
「なに」
…恥ずかしい。また言うとくだらないって。いつまで言うんだって。
「汗…だく…」
「大丈夫だ。気にならない、流し過ぎるほど汗はシャワーで流されてるよ」
「顔…どろどろ?」
「いいや、どうもなってない、綺麗なままだ」
綺麗、それは乱れてないってことですよね?
「…髪…汗臭くなってない?」
「なってない。すーっ。…いい匂いだ」
あ、匂い、嗅がないで。
「嘘だ」
全部……そう言ってるだけ。
「…本当だ、子供か……。…そそるいい匂いだ」
あ。ん゙、唇が触れた。もう黙れって…。
「……馬鹿…もう嫌い…」
「フ、もういいか?…泣くな」
「…ゔ、ん」
「フ、部屋の床、濡れるけど、仕方ないよな」
「…うん、はい」
短い廊下を進んだ。
「……優李、長い…、風邪引くだろ?」
「…ごめんなさい」
「いや、……可愛くて堪らなくなった。もう何も言うなよ?どんなにごねたって、もう待たないから。そう決めたんだろ?俺達は」
「…うん、はい」
私達はこうなることを選んだ。
「…優李。手伝ってくれ、濡れて脱げない」
早く脱がさなきゃベッドも濡れちゃう。
「あ、フフ、はい。ごめんなさい」
ボタン一つ外すのだって中々穴を通らない。
「フ、いや…。強烈に記憶に残るな、今日のこと…」
ヘアスタイルが濡れて少し乱れてる。
「はい、ごめんなさい」
「謝らなくていいんだ…可愛いよ…」
へばりついて思うように脱げなくて、剥がすようにばたばたと暴れて脱ぎ捨てた。これで二人とも裸になった。隠せるものは何もなかった。首に腕を回した。ゆっくりと倒された。
「…ん、………甘い…いい香りだ…優李の体…」
顔を包み見つめられ甘く気怠い声で優李と呼ばれた。右手で髪を鋤く。濡れてるなと囁かれた。食むことを繰り返した唇は徐々に移動していく。頭を抱いた。…湿る程度に濡れた髪が冷たい…。鳥肌がたった…。
「あ。…服、乾燥機に入れとかないと…」
「後でする」
「…はい」
…叱られた。ごめんなさい、もう何も言うなよって、言われたばっかりだったんだ。