可愛らしさの欠片もない

「好きな人のことを悪く言うつもりはないけどさ、嘘なんじゃないの?」

「そんなこと…それはないと思います」

人に言われたら否定はする。
私は特に警戒しなくていいんだと確信した途端、大島さんには、要所要所、相談のような話をするようになった。
甲斐さんの名前は言ってない。名前だけで何が解るということもないだろうけど。
矛盾してるけど、名前を出せば自分達のことをペラペラと喋ってる、と甲斐さんに思われたくないからだ。

「だけどさ、じゃあ、証拠はあるの?結婚してるは、多分間違いないことだろうけど」

それは間違いない。そのことを知っている先輩がいるから。

「離婚だよ離婚。本当に離婚しようとしてるの?言っちゃなんだけど、世間でよく聞く話ではあるじゃん」

それは私も思わないではなかったこと。

「関係を持ちたいがためにさ、いいようなことを言ってさ。それで、良かったら、ずっと引き止めておくために、離婚しようと思ってるんだとか、もう奥さんとは終わってるんだとか、言って。もう、よく聞く話じゃんそれは」

関係が…良かったかどうかは別として、見事に当てはまるから、そう言われても反論が出来ない。出来ないのは私にだって確信がないからだ。確信がなくても、そんな人ではない、と言える熱も足りない。それは結婚してること、離婚を進めていることが事後報告だったからだ。そういう状況にある人、止めた方がいいと言われてるようなものだ。
では、きちんとしてからって……そうはいかないのが、好きの感情のタイミングだ。始まったばかりの好きを頭でコントロール出来るなら、それはもう要らない。冷静な好きって…、それは、今は違う。
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